Youright的な見解

あくまでも私的な見解である

川内原発再稼働を斬る!!(朝日新聞・記事撤回の裏側)

 今月11日、政府は非公開とされていた『吉田調書』を公開した。これにより朝日新聞が今年5月に、この調書を独自に入手しスクープした「(東電職員が)命令違反で撤退」の記事が誤報と発覚し、同じ日の11日、同紙は問題の記事を撤回して謝罪会見を開いた。これが前回の慰安婦報道の訂正と相まって、翌12日には朝日新聞を中心に大騒動となるわけだが、実はこの騒動のおかげで何故か存在が薄れてしまった出来事があった。

 

 それは、九州電力の「川内原発の再稼働問題」である。

 政府が吉田調書を公開し朝日が謝罪会見を行った11日の朝刊では、各紙が大々的に(産経だけ記事が小さかった)「川内原発安全審査に合格」の見出しで記事を掲載していた。

 政府は10日に川内原発が安全基準に達したとし、最短でも今年の冬から稼働できる見通しになるというものだ。もしこれが実現すれば、国内で1年余り続く原発全停止状態から遂に再稼働第1号が誕生することになり、その後の更なる進展への足掛かりとなる。だが、あくまでも国の安全基準をクリアしただけであり、最終的に自治体がどう判断するのかが、今後の再稼働への大きな焦点になってくるだろう。

 しかし、このような重大なニュースが話題にされなくなったのは何故だろうか?

f:id:Youright:20140906042731p:plain プロパガンダに利用された吉田調書

 11日に公開された吉田調書は、内閣のホームページからダウンロードできるようになっており、新聞各紙も12日朝刊で特集を組んで掲載しているので、現在は誰もが見れる状態となっている。一方で、公開された内容には黒塗りの部分が多々あり、政府に都合のよいデータだけを公開しているのではないか?との懸念もされている。

 実際に私がこの調書を観た感想は、当時、福島第一原発での東電の事故対応は、大幅に誤った判断をしたわけでもなく、終息に向け出来る限りの努力をしていたのだと感じた。逆に、指揮系統を乱し現場を大きく混乱させたのは、当時の民主党閣僚達であり、特に元首相である菅直人氏の動きが、東電の事故対応に大きな弊害をもたらしていたという印象を持ってしまう内容であり、現にメディアもそのように報じている。

 果たして、これが意図的かどうかはわからないが、少しここで、吉田調書が公開されるまでのメディアの報道と、ここ最近の川内原発の動きを時系列で見てみたい。

  • 5月20日:朝日新聞が吉田調書に関するスクープ記事を発表する
  • 7月16日:安全審査(7月17日~8月15日まで一般の意見公募)
  • 8月18日:産経新聞が吉田調書を公開
  • 8月23日:政府が吉田調書を公開する方針を示す
  • 9月10日:川内原発に合格証・再稼働へ向けて動き出す
  • 9月11日:朝刊全紙が川内原発について大々的に報じる
  • 9月11日:政府が吉田調書を公開 朝日新聞が記事を撤回し謝罪
  • 9月12日:朝刊各紙が朝日への非難と、吉田調書を紙面に公開
  • 9月13日:iPS細胞を使った手術が成功が大々的に報じられる
  • 9月14日:各紙川内原発に言及する記事は特に見当たらない

 深読みするわけではないが、なにかシナリオが出来過ぎている気はしないだろうか?

<消えた再稼働ニュース>

 本来11日の朝にメディアが川内原発を一斉に報じた時点で、世論が再稼働の問題点について、もっと大きく取り上げるべき場が必要だったのだ。

 しかし同じ日に『吉田調書』が政府に公開された時点で、その場は失ってしまい、民主党福島第一原発での事故対応の不味さに、話題が置き換えられてしまったのである。そして、その日の夜に朝日が謝罪会見を行う事でに、今度はそちらにも注目が集まってしまったのだ。ここで、もはや原発再稼働の話題など時代遅れとなってしまったのである。

 さらに国民の関心は、朝日新聞社菅直人以下・民主党へ向けられたまま、翌日12日には「世界初・iPS細胞での手術成功」という国際的な大ニュースが報じられ、これにより完全に川内原発の再稼働の話題は世間から消えてしまったのである。

  ≪9月10日~13日までの国民の関心の変化≫

原発に対する不信感 → 民主党への非難 → 朝日新聞への国民の怒り → iPS細胞への期待  

 もともと、川内原発に合格証が渡される日は以前から決まっており、またiPS細胞を使った手術の日取りも決まっていたはずである。明確に日時が決まっていなかったのは『吉田調書』の公開日だけであった。このカードを上手く2つの話題に差し込む事で、政府と東電は国民感情を誘導したのではないだろうか?事実、iPS細胞の話題から一夜明けた14日付の朝刊各紙面では、原発再稼働の話題は特に報じられていない。

 何れにせよ公開された『吉田調書』は先の原発事故対応において、東電(電力会社)に非は無く、予測できない未曾有の大災害と当時の政権が悪かったと印象をづける内容であることは確かである。朝日新聞は勝手に自爆したわけだが*1、これを上手く利用されてしまい、またiPS細胞は素晴らしい技術であるにも関わらず国民の目を逸らす為のダシにされてしまったわけだ。

 結局、『吉田調書』は良くも悪くも「原発再稼働の為のプロパガンダ」とされてしまったのである。しかしながら、世界に例のない原発事故の対応を記した調書である事には違いなく、今後の原発事故へ対処するマニュアルとして国内外問わず貴重なものになって行くだろう。

f:id:Youright:20140906042739p:plain 稼働する気満々の安全基準!!

 川内原発に適用された新しい安全基準は、去年の7月に施工された。

 この新基準を見た後で、3.11以前の基準を見比べてみると、「こんな安全意識もなく核エネルギーを使用していたのか!?」とその内容に改めて驚いてしまう。

 一部例を挙げてみると、

  • 非常用の移動式電源車両は有るか?・・・新基準:〇 旧基準:✖
  • 原子炉に外から放水する放水設備は有るか?・・・新基準:〇 旧基準:✖ 
  • 移動式のポンプ車両はあるか?・・・新基準:〇 旧基準:✖
  • 予備の緊急時指令拠点があるか?・・・新基準:〇 旧基準:✖

と、呆れてしまうような内容となっている。

<後付けの安全基準>

 しかしながら安全基準の法や規制というのは、事故が起こった後でしか作れない「後付けの理論」なのである。

  Aという事後が起こって初めてAに対する安全基準ができるわけで、Aという事故がなければAに対する安全基準も作られることはない。何年前かの国会審議で「政府はUFOが攻めて来たらどう対応するか?」なんてバカげた議論で騒動になった事があるが、UFOに対する安全基準はUFOが攻めて来なければ作れず、そもそも予測される明確なビジョンがなければ対応策など講じられないわけで、それはゴジラも隕石も同様であるだろう。

 今では到底考えられないが、東日本大震災前の日本では「日本の原子力発電所は絶対に事故を起こさない」という『原発安全神話』が存在しており、それが本当に信じられていた。それ故に震災時の福島第一原発では、電源喪失時にも緊急用の電源車両が無く、炉を冷やすにも外から放水できるシステムがなく、さらには近隣住民の避難計画さえも無かったのである。

  今見れば、確かにずさんな管理体制ではあったが、東日本大震災は千年に一度の大災害であり、その被害の規模を予測するのは難しく、起こった後での非難はいくらでもできるだろう。それよりも、原発安全神話』を何ら不思議と思わず受け入れていた我々国民にも、責任は十分有るのではないだろうか?

<禁じるルールではない> 

 安全基準と言うのは我々の身近にも様々な所で存在している。

 列車運行の安全基準・製造業や建設業の作業に対する安全基準・道路交通の安全基準、そして我々が普段使う家庭用品にも安全基準が義務付けられている等、列挙すればキリがない。

 だが、これら全てに共通している点は「安全基準とは安全に使用する為の基準であり、使わせないようにする基準ではない」という事だろう。使用する為の安全基準である以上は、基準が設けられた時点で使用する前提という事であり、つまり政府は、原発を将来的に絶対使用する目的でこの基準を設けたわけである。

f:id:Youright:20140906042731p:plain 電力会社の厳しい現実 

 現在、原発が稼働していない状態での電力会社の経営状況は厳しい。

 川内原発の九電をはじめ、北電・関電の3社は経営悪化に苦しんでいる。(一方で当事者であるはずの東電は純粋な経営は黒字に転換している)3社が赤字なのは、電気使用量に対して原発依存度が高かった為であり、電気料金を値上げしたのにも関わらず経営が好転しなかったのは、原発の維持費に莫大な経費が掛かってしまっているからだ。

<燃料費負担で赤字は、お涙頂戴の嘘>

 九州電力でみると、今年の4~6月期の連結決算は、最終損益が406億円の赤字となっており、1日で換算すると約4.5億円赤字になる計算だ。

 「燃料費負担で赤字」と公に発表されているが、電力会社は火力発電等に使用される燃料を他国から輸入した場合、電気料金に上乗せしても良いという『燃料費調整制度』がある。したがって輸入燃料の高騰で赤字経営というのは、電力会社が発表している嘘であり、赤字分は単に稼働が停止した原発の維持費である。

 つまり、電力会社からすれば何が何でも原発を動かしたいのが心情と言うわけだ。

  一方で政府側も原発の稼働が出来ない状態が続けば、電力会社の経営は危うくなり、やがて国費で賄う羽目になってしまう。現に、今の東京電力がその状態にある。

 それらは、最終的には国民が負担を背負う事なのだ。

 

最後に、原発稼働へ反対する人へ

 燃料費負担で赤字は電力会社の嘘だが、燃料費負担で電気料金が高くなるのは事実である。

 

 現在、原発稼働の反対派は、「電気料金が多少上がってでも、その他のエネルギーを使うべきである」との考えだろう。しかし、もしかしたら反対派の多くが、「電気料金は自分達の周辺だけで支払われている物」だと、勘違いしているのではないだろうか?

 当たり前のことを言うようだが、電気は当然、我々が普段使用している交通などのインフラ設備や、製造業・建設業・オフィスビル等と様々な所で使われている。これらの電力は家庭で使われる電力の比ではなく、特に製造分野では電気料金の値上がりが直接経営に響いてしまう。もし何処かの製造業者が経営悪化に陥ってしまった場合、経営側は従業員の賃金を下げざるを得なくなったり、深刻になればリストラされる従業員も出てくるかもしれない。

 これは一部の例えだが、現実ではこういう格差も生まれてきてしまうのである。

 自分は製造業じゃないから関係ないと切り捨てて置いて、その傍ら「お気の毒に」と本人を前に言えるだろうか? 

 

 また逆もしかりで、電力会社が法外に電気料金を上げ続け、そのうち国民が原発を使わざるを得ない状況へ誘導する可能性も十分にある。

 何が何でも反対!!もしくは、推進!!では現実問題としては極論すぎるわけで、両者が都合のよい分部だけを取り出して感情的に議論をしている今の状況は、この先に負の連鎖を生み出す要因となってしまうのではないだろうか?

 (因みに私は、「現時点では原発を使用すべきである」との考えである。)

*1:もしかしたら意図的にガセネタを掴まされた可能性もある