Youright的な見解

あくまでも私的な見解である

小渕裕子さんの辞任で女性活躍の場は奪われた。

 本日の新聞は各紙が、「経済産業大臣の進退問題」を1面で報じていた。朝刊では、小渕優子経産相から正式な辞任の意向は伝えられていなかったが、19日の夕方には辞任する方針を固めたと報じられた。

 本日付の各紙朝刊の見出しは次のようになっている。

  第2次安倍改造内閣が発足してから、まだ1カ月半しか経過していない。それ故、今回の小渕氏の辞任は、安倍政権へ大打撃となるだろう。

 

やむを得ない事情の内閣改造

 第2次安倍改造内閣の一番の目玉は、女性閣僚の最多起用であった事だ。

 中でも小渕氏は将来初の女性総理大臣候補と言われ、周囲からの期待度は高かった。それだけに、彼女を押す人達にとって、今回の辞任劇は非常に残念なものとなった事には違いない。

 

 前回の第2次安倍内閣は、首相と全閣僚が同じ人員の内閣として617日を記録し、これは戦後最長記録を更新する結果となった。これは2年近くの間、閣僚の誰一人も金銭問題や失言などの不祥事を起こす事は無かった事を意味しており、近年では稀に見る優秀な内閣であったと言えるだろう。本来、安倍首相はこの優秀な内閣を再編成する事は望まなかったはずだ。しかし、同じ党内にはポスト待機組と言われる不満分子が存在していたわけである。同じ閣僚の内閣が続けば政権は安定し国の政策は円滑に進められる。だが、それとは裏腹に党内の不満は増大し、結局は結束力の低下が政権を不安定にさせてしまうのである。このような、何とも馬鹿らしいスパイラル構造が政界には出来上がってしまっているのだ。したがって第2次安倍改造内閣とは、この馬鹿げたスパイラル構造を解消する為だけの人事だったわけである。

 しかし、この改造人事は自民党内の不満を解消する為のものであって、国民の為では無かった事は明白であるだろう。それ故に、国民が納得する為の国民向けのキャッチコピーが必要になったわけだ。それが「女性が活躍する社会作り」と言うわけであり、そうして生まれたのが女性最多起用の内閣だったわけである。

 

強引で無理やりに作られた女性活躍推進

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 現在の与党である自民・公明の議員数と女性議員数の比較は、次のようになる。

衆議院

参議院

 それぞれの男女比は以下となる。

  • 衆議院の男女比=1(女):11.5(男)
  • 参議院の男女比=1(女): 5.7(男)
  • 衆参合計   =1(女): 9(男)

 第2次安倍改造内閣での閣僚は18名で、その内訳は男性13名・女性5名であるから、男女比=1(女):2.6(男)となる。単純に衆参与党を1つの物として考えた場合、男性が閣僚になれる確率は1/31であり、女性が閣僚になれる確率は1/9となるわけで、その差は3倍以上になってしまう。

 少々偏見に満ちた表現で述べると、「男生は女性の3倍頑張らなくてはならいが、一方で女性は男性の3分の1程度頑張れば良い」という事になるだろう。

 

 この内閣人事が、安倍首相が進める女性活躍推進策の象徴的意味合いを持つのであれば、今後女性にとって活躍のチャンスは確かに増える事になるだろう。なぜならば、女性に生まれたと言うだけでチャンスは男性の3倍になり、労力は男性の半分以下で済むからである。

 しかし、これは女性への逆差別と言えるのではないだろうか?

 

 この不公平な構図に反発しているのが旧体制の人間たちであり、いわゆる保守主義者である。冒頭の各紙の見出しを見てもらえば、左派・革新の朝日・毎日・東京は明確な辞任と言う表記を避けているのに対し、右派・保守の読売・日経・産経は辞任を明確に表現している事がわかる。自民党は伝統的に保守勢力であり党員の多くは保守主義者であるから、現在の内閣の人事に不満を持っている党員は多く存在するはずだ。しかしながら、保守派にせよ革新派にせよ、9割を男性が占める所帯の中での「あからさまな女性優遇」は、どの道不満は出ただろう。その一方で、安倍首相が掲げる女性活躍推進策は、党としては女性票を多く獲得できるというメリットもあった。選挙は勝たなくては意味がなく、たとえ閣僚ポストへ就いても次回の選挙で負ければ意味がない。つまり安倍首相は党員に対し、個人よりも党を優先に考えさせる事によって、しぶしぶ納得させたわけである。

 

 これは結果さえ出せれば「終わりよければすべて良し」で、誰も文句を言えなかっただろう。しかし、松島みどり氏のうちわ問題や今回の小渕裕子氏の金銭問題など、無理やり入閣させた女性閣僚が思わぬ不祥事を引き起こす結果となってしまった。そうなれば、ポスト待機組だった人材から見れば「ほれ見た事か」となるわけで、人事を決めた首相に対しての不満が再び加熱する事態になってしまうわけである。

 安倍首相にとって今回の小渕氏の辞任騒動は、国民の不信感もさることながら自民党内から不信感を持たれたことが、より深刻であると言える。なぜなら、安倍首相は来年の総裁選への出馬を考えているとみられ、総理としてではなく党首としてダメージを受けてしまえば、再選に不利な状況となってしまうからである。

 

どうする原発・再生エネルギー、そして原油高 

 安倍政権にとってもう一つ大きな問題は、辞任となったポストが経済産業大臣という事だ。 

 経済産業省の管轄の中には、資源エネルギー庁が含まれている。

 資源エネルギー庁は、国内において最も重要な部署の一つであると言え、また現在の我が国において優先課題を多数抱えている。現状として、国内のエネルギーは高騰を見せている。最近では原油の価格自体に下落が見られるが、それでも円安であることから結果的に国内の原油価格は未だに高く、火力で賄っている電力やガソリンなどの料金に多大な影響を与えている。安倍政権の掲げる成長戦略を進める上でこれらの問題解消は急務であり、その解決策の一つが原発再稼働であるだろう。

 現在国内では9月初めに川内原発の安全基準に合格が出され、再稼働への勢いがついていた。さらに今月に入ってからは各電力会社が再生エネルギーの受け入れ停止を決めるなど、明らか原発再開の裏工作とも思われる動きも見られ、再稼働への布陣も抜かりなく張られていた。

 しかし問題は、これらの出来事が小渕氏が就任してから進められたという事である。

 再稼働が現実味を帯びて来た矢先での管轄省庁トップの辞任劇は、その在任期間に押し進めて来た政策に疑問を投げかけられる事が予想される。そうなれば、せっかくの再稼働計画が再び停滞する事態に繋がり、最悪の場合すべて水の泡になる恐れもあるだろう。もし最悪の事態に陥った場合、安倍政権の受けるダメージは図りし得ない物となってしまうのだ・・・。

 

女性活躍の場が無くなってしまった

 今後、小渕氏の後任を誰に置くかで、政権の行方は左右される事になる。だが、負ってしまったダメージの回復は容易ではない。

 

 小渕氏は、女性活躍推進のシンボルであったと言える。実力はさることながら、まだ若く民衆をひきつける容姿からも彼女を支持する有権者は多い。父親は首相を務めた故小渕恵三氏であり、党内の実力者達からの信頼も厚く、将来は初の女性総理候補と期待もされていた。それ故に今回の辞任は非常に残念に思う。しかし蓋を開けてみれば、凡ミスともいえる金銭トラブルを起こし、不本意に役職を辞する事で自身のキャリアに傷を付けた未熟な議員であったとも見れる。

 当然この事態を見抜けなかった首相の責任も重いだろう。

 経験も浅い若い議員*1を、自ら掲げる女性活躍推進の象徴として強引に奉り、結果として将来有望な若い芽を摘んでしまったのである。

 

 活躍する女性のシンボルであった小渕氏が活躍する場は失われた。

 これにより政府主導で進められている女性活躍推進政策は、疑問を持たれる事になり停滞を招くことになるだろう。小渕氏の辞任は自身だけでなく、これから活躍するであろう女性達の芽も摘んでしまったわけである。

 

 果たして、この事態を打開できるような道はあるのだろうか?

 たとえあったとしても、それは険しい道である事は間違いないだろう。

*1:小渕氏は当選回数5回で閣僚経験もあるが、それでも経産相を担うには経験不足と言われていた