Youright的な見解

あくまでも私的な見解である

マララさんのノーベル平和賞受賞に疑問

 今月10日、2014年ノーベル平和賞パキスタン出身の17歳のマララ・ユスフザイさんが、史上最年少で同賞を受賞した。

 

  彼女が住んでいたパキスタンの北西部に位置するスワート地区は、2007年に武装勢力パキスタン・ターリバーン運動』に行政が掌握され恐怖政治が敷かれる。これにより女性に対する差別が激化し、女子学校は破壊され教育を受ける権利は奪われる事になってしまった。また同地区の女性達は、日常的に行われる暴行により命も危険に晒される事になる。マララさんは11歳の時に、ターリバーンの恐怖政治に怯える人々の惨状や体制の批判を、イギリスのBBC放送のブログへ投稿し世界へ訴えた。その甲斐もあり、パキスタン政府は同地区からターリバーンを追放する事に成功するが、その原因を作った彼女は同組織から命を狙われる事になってしまい、2012年に学校からの帰宅途中に銃撃され重傷を負ってしまう。

 このターリバーンが行った15歳の少女への襲撃は世界に大きな衝撃を与え、同時に恐怖に屈しない姿勢が多くの人々の共感を呼び、特に教育の機会を奪われた女性の希望の象徴となり、多くの人に勇気を与えた。

 そんな彼女に、これまで世界が贈った賞は以下の通りである。

 11歳とは、日本では小学5年生に当たる歳である。

 11歳の幼い少女だったマララさんが、命をかえりみず勇敢に恐怖に立ち向かい世界に影響を与えた功績は、我々日本人が自らの小学5年生の頃を思い出した時に、初めてその偉大さがわかるのではないだろうか?

 

 しかしながら、私は個人的に今回のマララさんのノーベル平和賞を受賞そのものへは、必ずしも賞賛を贈れないのである。

 

政治利用された平和賞

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 問題はノーベル平和賞という存在自体にあるだろう。

 そもそもノーベル平和賞の掲げる平和とは、明らかに欧米社会から見た平和であり、もっと言うならば旧西側諸国よりの平和である。この平和は時に欧米社会(とくにアメリカ)に政治利用され、自己の正当化や敵対勢力のけん制など、都合よく国際世論を誘導してきた側面を持っており、平和の押し売りとの見方もできるのだ。 

 そんな一方的な平和を押し付けて来た欧米社会が現在直面している危機は、イスラム原理主義を掲げるイスラム国』の台頭であるだろう。

 今年に入り『イスラム国』を宣言したテロ組織は、同組織の活動拠点であるイラク・シリアで一般人の虐殺行為を続け、一方で誘拐した捕虜の斬首映像をネット上に流すなど、その残虐性は世界を震撼させている。現在アメリカは、同国にとって『イスラム国』は最も優先すべき敵であると見ている。その他にも、パレスチナの『ハマス』やアフリカで虐殺を繰り返す『ボコ・ハラム』、そしてマララさんを襲った『パキスタン・ターリバーン運動』も同じイスラム原理主義者達である。

 

  つまり、17歳の少女が最年少でノーベル平和賞を受賞した理由は「反イスラム原理主義プロパガンダでしかなく、イスラム原理主義=悪である」というイメージ操作であった事は、誰の目からみても明らかなのである。

 平和賞が贈られただけならば、まだ良い。

 だが、今回の受賞でマララさんは「反イスラム原理主義の象徴」となったわけであり、これに対しイスラム過激派は「欧米に媚を売ったイスラムの裏切者」と批判した。彼女を襲った『パキスタン・ターリバーン運動』だけでなく、全てのイスラム原理主義者達から非難を浴びる事になったわけで、つまりは命を狙われる危険がより増したのである。

 世界は17歳の少女の命を危険にさらしてまで、政治利用をしてしまったのだ。

 果たして、ここまでする背景には何があったのだろうか?

 

中東問題などには全く興味がない欧米社会

 現在、『イスラム国』へ対するシリア空爆アメリカ主体で行われている。最近開かれた2014年国連総会でも、オバマ大統領は各国に「打倒イスラム国」への賛同を求めた。この時のオバマ大統領の演説には、かつてブッシュ元大統領がイラク攻撃の正当性を訴え国連を2分化した時ほどの物議を醸す事は無かったようだ。それは『イスラム国』が正式な国ではなくテロリスト集団と見なされており、シリア政府もこのテロ集団の危険性を訴え支援を要請しているからであるだろう。しかしそれでも、各国の対応はオバマ氏の演説に対し慎重であったと言える。

 何故ならば『イスラム国』のようなイスラム過激派に対し、欧米社会は「もう関わりたくない」と言うのが本音であるからだ。これは9.11以降、アメリカがイラクアフガニスタンの治安維持に失敗し泥沼化した事や、その後EU諸国にも広がったテロにより、欧米社会全体で多大な犠牲者が出てしまったからである。

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 アメリカが関わりたくない最大の理由は、シェールガスの誕生であるだろう。

 もともとアメリカが中東にこだわっていたのは、石油利権を守る為であったことは、同国が最大の石油輸入国であった事を見れば明らかである。しかし近年アメリカは、シェールガスという石油に取って代わるエネルギーを自国内で生産する事に成功した。これはエネルギー革命であり、今やアメリカにとって中東の石油に価値などなく、つまりは中東問題など興味がないのだ。

 

 オバマ大統領はシェールガスが実用化されだした2013年に、アメリカは世界の警察官ではない」と述べ、 同国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確に示している。

 

それでも中東問題に関わらざるを得ない理由

 日本ではなじまない話だが、アメリカもヨーロッパ諸国も自国内にイスラム教徒の人口の割合はそれなりに占めており、その大抵は社会的に差別をされている貧困層でもある。現在、アメリカは比較的好景気とされているが、実際は失業率は高く収入格差の開きも大きい。EU圏などは全体的にみても不景気であり、ただでさえ貧困層に置かれている各国のイスラム教徒にとっては苦しい状況にあると言える。

 そんな中で、今もっとも景気が良いのが『イスラム国』(イスラム国は国家ではないが)であるだろう。

 『イスラム国』が今までのアルカイダタリバンなどのテロ組織と一線を画しているのは、兵士を高い賃金で求人している事である。ここの兵士になれば、日当は日本円で3万円以上とされており、月給にすると50万以上になり、これは日本人の平均給料よりも遥かに高い計算になる。このような話につられ、各国から貧困にあえぐイスラム教徒や、果ては元々イスラム教徒ではない失業中の若者までもが、テロ組織へ合流するという前代未聞の現象が起こっているのである。

 このテロ組織へ自国民が流出するという問題点は、勝手に国外へ出ていき中東で活動するだけなら大して問題にはならない。だが当然『イスラム国」の好景気はいつまでも続くはずがなく、その景気が傾いた時に、逆に兵士達が自国へ戻って来る事が問題になるのだ。そうした場合、テロリストを自らの国内に容易に受け入れる事になってしまい、今度は「自国がテロの標的になる」という新たな恐怖が生まれるわけである。

 「自国からテロ組織へ流出=国内にテロの脅威」という図式になる事から、欧米諸国は『イスラム国』への就職をどうしても止めたいわけであり、止める方法はその組織を叩くしかないのである。

 

逃げられないアメリ

 オバマ大統領は、アメリカ軍の世界の警察の役割を放棄する宣言をしたが、簡単には行かない。

 『イスラム国』の活動拠点であるイラクは、かつてサダム・フセインによって統治されており、同政権は評価が分かれるものの、存命時には国内の治安は維持されていた事は間違いない。それを2003年にアメリカが同国へ強引に侵攻し、僅かな期間で壊滅に追い込んだ。だが、その後の戦後統治は完全に失敗し、イラクの治安はみるみる悪化して行く事になる。同時に新たなテロ組織が生まれる結果となり、『イスラム国』の前身であるテロ組織も、この時期からイラクで活動を始めている。止まないテロにアメリカ兵の犠牲は尽きることがなく、遂にアメリカは2011年に自らが崩壊させたイラクへの責任を放棄し、治安回復の道筋が見出せないまま逃げるように完全撤退する。(因みに、この時期には国内でシェールガスの実用性のめどは、既についていたと見られる)

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 アメリカ軍が撤退した後のイラクでは、『イスラム国』の前身である『ISIS』が勢力を拡大し猛威を振う結果となった。勢力を拡大した『ISIS』は今年に入り、『イスラム国』を宣言したというわけである。

 つまり、現在の『イスラム国』を作ったのはアメリカという事になる。アメリカは過去にアルカイダも作っている)

 

 この事実を知らぬ振りをして放置しておくことは出来ない。

 そもそもの原因を作ったアメリカがこの問題から責任逃れすれば、今まで築いた国際的地位は下落し、世界に対して影響力を失う事は避けられないだろう。従って、アメリカ政府としては否が応でも『イスラム国』を叩くしか道はないのである。

 

アメリカの解決策

 今年2014年の11月にはアメリカ国内で中間選挙が行われる。

 国内世論は『イスラム国』のようなイスラム過激派へ、これ以上関わる事にうんざりしている層が多くを占めており、もっと言えば戦争行為にうんざりしている。

 

 そして、現在のアメリカが抱えるもう一つの難問として、イスラエルとの関係があるだろう。

 今年に入り、イスラエルパレスチナガザ地区空爆を繰り返し、一般市民を虐殺している。国内で強力な力を持つユダヤ人への配慮から、イスラエルとは友好関係を築くのがアメリカの伝統である。現在イスラエルが行っているガザ地区への虐殺行為は、国内外問わず批判されている。しかしながら、アメリカ政府としてはイスラエルを支持せざるを得ないのが現状であるわけだ。 

 こうも国民の反発を招く政策を立て続けに打ち出せば、もはや政権へのダメージは壊滅的なものになり、選挙へ与える影響は図りしえないものになってしまう。アメリカ政府は「イスラム国への攻撃」と「イスラエルガザ地区への攻撃の支持」、この2つの事象に国民が納得するシナリオを作る事が教務になったわけである。

 シナリオには登場人物が必要で、それは劇的で衝撃的な人物が適任であり、さらに正義と悪が国民に分かり易い勧善懲悪的なストーリーである方が好ましかった。

 

 そこで主人公に選ばれたのが、17歳の少女マララさんである。

 

 この少女は11歳で恐怖政治と戦い、15歳で命を狙われるという劇的な人生を歩んで来た。そして、同じ敵を持つという共通点があった。『イスラム国』・イスラエルが攻撃している『ハマス』は、少女を襲った『パキスタン・ターリバーン運動』と同じイスラム原理主義を掲げる過激派組織であったわけだ。

 17歳の少女に、前代未聞の最年少でノーベル平和賞を受賞させれば、インパクトは大いにあり感動を巻き起こすだろう。また、彼女の辿った壮絶な過去と未だ残る痛々しい傷跡を見れば、世界は彼女に同情し「イスラム原理主義は悪である」と共感するに違いない。これでアメリカ政府は自らを正当化する、お膳立てができるのである。

 

 前の方で述べたが、今回の受賞で一番の問題は「17歳の少女の命が危険にさらされた」事である。政権維持や利権を守る大人達の勝手な都合の為に、子供の命が利用されてしまったのだ。

 現に、イスラム過激派勢力はマララさんに対し「イスラムの裏切者」とし敵対心をあらわにした。彼女の命を狙う勢力は、今やパキスタンだけでなくイスラム社会全体へと広がり、危険性は格段に増したと言える。だが、たとえ彼女が命を落としても、大人達はそれを新たな政治利用の為の道具とするだろう。彼女を政治利用した者達にとって、所詮は彼女の命などその程度の物でしかないのである。

 

 私は17歳の少女の顔に残る痛々しい傷跡を見ると、彼女の倍以上を生きている大人として、恥ずかしい気持ちになってしまう。

 

 しかしながら、マララさんは11歳の頃より自らの命をかえりみず、理不尽と戦ってきた女性である。彼女は、たとえ自分が受賞した裏に様々な政治的要素があったとしても、結果として世界平和に貢献できるのであれば、喜んで命をささげるかもしれない。

 そんな彼女の生き方を前に、私の考えなどは、ただの下種の勘繰りにしか過ぎないのだろう。