Youright的な見解

あくまでも私的な見解である

衆議院の解散は日本の伝統芸である。<衆議院解散:前編>

 昨日の夕方、安倍首相は来年の追加増税を見送り、今月21日に解散・来月14日に投開票を公式に発表した。

 先月の終わりに日銀が追加緩和を発表した時点で、私は「増税は、ほぼ確定である」と予想していたのだが、今月に入るや否や年内解散総選挙が噂され始めた。ASEAN首脳会議が開催された頃には、もはや解散間近であると各メディアが報道し、各党も総選挙へ向けての準備を進めていた。既に世間は解散ムードに染まっており、国民の大半が増税見送りに気付き始めた中での首相の公式発表に、新鮮な驚きを感じた者は少なかっただろう。

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衆議院の解散は日本の伝統芸 

 衆議院が任期満了前に解散する事態は、今や日本の政治の風物詩にもなっている。

 衆議院議員の任期は通常4年だが、実際に戦後から現在にかけて4年の任期を満了し総選挙が行われたのは、三木内閣時の「第34回衆議院議員総選挙」が唯一のものとなっている。現時点までで総選挙が行われたのは46回であるから、衆議院議員が任期を全うできる確率は1/46となり、パーセンテージでは2.1%とかなり低い。もっとも現在の衆議院議員の殆んどが、先に述べた第34回総選挙の後に初当選した議員であり、その在職期間は平均すると2年半程度となっている。

 

 衆議院が任期を全うできないという状況は、決して悪い事とは言えない。

 何故なら、国民の声が反映されやすいメリットがあるからだ。

 日本の衆議院は、参議院アメリカの議会などとは違い総選挙方式が取られており、解散や議員辞職がない限り入れ替わる事はない*1。全員が途中交代のない制度での4年という任期は、近年の目まぐるしく変化を見せるグローバル社会では、あまりにも長く感じてしまう。だが、短期間に選挙が行われば、候補者達はその時代の局面に見合ったマニュフェストが打ち立てられるわけで、有権者の選択がそのまま国民の声となり反映されるわけである。要は、選挙のスパンが短かければそれだけ、時代に見合った国民の意見が尊重されるわけだ。

 

 しかしながら、短命な衆議院体制は戦後70年にも渡り続いてしまった。

 これは同時に、メリットを台無しにする状況も生み出してしまったのである。

 

国民の声を遮る要因

 衆議院解散総選挙を行い、その都度、国民の声を反映する存在になるわけだが、一方では解散総選挙を繰り返す事により、その最大の特色を打ち消すデメリットが生まれてしまっている。

 私が思う大まかなデメリットは以下の3点である。

  1. 内閣(政治)が安定しない
  2. 官僚が権力を持ちすぎてしまう
  3. 参議院が権力を持ちすぎている

 (1) 内閣総理大臣職は戦後から現在までは、衆議院議員から指名されており、それに伴う閣僚も多くは衆議院議員で構成されている。だが衆議院議員の在職期間が平均して2年半程度でしかない故に、安定した長期的内閣の存在を困難にさせてしまっている。

 内閣は国会議員で構成される立法機関ではなく、国家運営を司る行政機関であり、同機関が安定しないという事は、国家運営が安定していないという事でもある。

 

(2)内閣は入れ替わっても、官僚が入れ替わる事はない。

 行政機関の運営は実際には官僚が行っているわけであり、内閣の意向を反映させる為にはお互いの信頼関係が必要不可欠となる。しかし短命な内閣では、大臣と官僚が信頼関係を築いた頃には、再び内閣が入れ替わる事態を招くだけであり、官僚からすれば時間を浪費するだけとなってしまう。であるならば、官僚は初めから内閣を信頼する必要などなく、自らが主体となって業務を運営したほうが物事は円滑に進むはずである。

 また国会議員と違い選挙も任期も無い官僚は、国外の外交関係者や国内の財界・組合・団体などと切れない太いパイプで繋がっており、最終的には国会議員よりも強い権力を有する事になる。

 やがて内閣と官僚のパワーバランスは崩れ、結果として官僚主導の政治が行われてしまうのである。

(3)参議院が力を持ちすぎている。

 これは衆議院解散総選挙で生じるデメリットではないのだが、私は日本の政治の大きな欠陥の一つとして、参議院の権力が大きすぎる点が挙げられると思っている。

 内閣は先に述べた通り衆議院で構成されており、日本国憲法における議院内閣制を明確に採用しているが、この議院内閣制の外にある例外的な存在が参議院である。憲法上、参議院には内閣に対し不信任案が出せず、内閣も参議院を解散させることは出来ないわけであり、事実上、議院内閣制の関係は衆議院と内閣との間のみに成立している。

 そんな議院内閣制の例外であり、議員定数衆議院より劣る参議院衆議院多数派や内閣の意思を完全に否定できる力を有している」のである。

 いくら衆議院が国民の声を反映しやすいといっても、その内容が参議院で否決されれば国民の声は無視されてしまうのだ。これは統治機能の欠陥であるとも言え、参議院の力を乱用すれば我が国の政治に重大な危機をもたらす事になる。

 本来は参議院は「良識の府」や「再考の府」と呼ばれているように、衆議院や内閣の決定を監査するチェック機関であるべきで、名前の通り良識をもって対応する必要がある。しかし、2007年で参議院議席過半数獲得した民主党は、この良識を捨て参議院の権力を大いに利用し、自民党に対し徹底的に対抗した。これにより、当時の安倍・福田・麻生政権は短命に終わり、内閣は不安定な物となる。その後、民主は政権を握ったが、今度は参議院過半数を得た自民に逆襲を受ける事になり、結果、2007年から2012年の自民が衆議院選挙で圧勝するまで、何も決められない「ねじれ国会」が続き、政治に空白が出来てしまう。

 この負のスパイラルが、震災対応の遅れなどの国家的被害を引き起こしてしまったのである。

 

 以上挙げたデメリットを払拭する為には、事実上、憲法の見直しが必要になってくるわけだが、現時点でそれは非常に困難な道のりであり現実的ではないだろう。

 現実的な解決策は、安定した政権を作ることにある。

 その為の最善策は、衆議院が解散せず4年の任期を務める事であるはずだ。

 本来はそのはずなのだが・・・

 

 衆議院の解散は、不安定な政権を作る要因であると同時に、安定した政権を作る為の選択肢にもなっていたのである。

 

後編に続く

長期政権維持の為の衆議院解散<衆議院解散:後編> - Youright的な見解

*1:これはコレで問題があると私は思う